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高野之夫豊島区長への申し入れ書

TENOHASIが7月28日に提出した豊島区長宛の申し入れ書です。
提出についての経緯は、1つ前の投稿をご覧ください。
また、添付した説明資料が2つ・3つ前の投稿にあります。申し入れ書では説明が尽くせなかった炊き出しの総合支援機能について説明しています。ぜひ併せてご覧ください。

2009年7月28日
豊島区長 高野之夫様

    炊き出しについての申し入れ書 

日頃から区政へのご尽力に敬意を表します。

 私たち特定非営利活動法人TENOHASIは、誰もが安心して生活できる社会の実現に寄与することを目的として、豊島区におけるホームレス状態の方を含む生活困窮者への支援活動および調査広報活動を行っている法人です。
 ホームレスの自立の支援に関する臨時措置法第12条では「国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を実施するに当たっては、ホームレスの自立の支援等について民間団体が果たしている役割の重要性に留意し、これらの団体との緊密な連携の確保に努めるとともに、その能力の積極的な活用を図るものとする。」と定めています。私たちも、ここでいう「民間団体」として、行政と連携しながらホームレス状態の方々の自立の支援を行ってきました。

 私たちの最も重要な活動が、月2回(第2/第4土曜日)、豊島区立南池袋公園で行ってきた炊き出しです。この炊き出しは前身団体の頃から10年以上続いているもので、毎回、豊島区役所公園緑地課から公園の使用許可を受けて、今まで大きなトラブルもなく続けてきたものです。
 私たちの炊き出しは、そこでただ単に食事を提供するだけでなく、衣類等の生活必需品の配布・医師看護師らによる医療相談・福祉の専門知識のある担当者による生活相談・法律家による法律相談・臨床心理士を中心としたメンタルヘルス向上のための茶話会・鍼灸指圧マッサージ師による鍼灸相談と指圧マッサージ施術など様々な支援活動を行っています。ですから、炊き出しとはいいつつその実態は、ホームレス状態の方の身体的・精神的健康を維持し、さらにホームレス状態から脱するための情報提供と具体的な援助を行う、いわば総合支援の場となっています。ここで出会い、私たちの支援で医療や福祉・就労につながってホームレス状態から脱した方も多数いらっしゃいます。また、炊き出しに並ばれる方の数は、昨年からの雇用危機を受けて増加の一途(毎回300人から400人超)をたどっており、その重要性は増すばかりです。

 しかし、本年6月17日、豊島区役所公園緑地課との話し合いの場において、私たちは公園緑地課長より「南池袋公園は東京電力の変電所並びに区の駐輪場建設のため本年9月14日をもって閉鎖し5年間の工事に入るために炊き出しができなくなる」こと、また「地元商店会などからの苦情が多いために、今後は他の公園で炊き出しのための使用許可申請を出しても認めない」旨の通告を受けました。
 南池袋公園の工事は仕方がないことですが、そのことと炊き出しへの苦情は別問題であるはずです。毎回、公園の使用許可を取り平穏に行ってきたTENOHASIの炊き出しが、この機会に全面的に禁止されるということは承服しかねます。
 公園緑地課長のおっしゃるとおり、炊き出しで路上生活者が集まることを不快に思われたり迷惑を被っている方がいることは確かでしょう。公園緑地課としては区民からの苦情に答えることが責務であることは理解できます。しかし、炊き出しの社会的意義も決して軽いものではないと思います。地元の方でも、私たちの活動を理解し応援してくださる方もいらっしゃいます。二者一択ではなくて、両方が成り立つような方策を考えていただけないでしょうか。今後、苦情が来た場合には、私たちに伝えていただければできる限りの対応をし、迷惑のないように、また地元のご理解をいただけるように努めて参ります。私たちと地元の方々が、対立ではなく、ともに歩んでいける道を探していきたいと思います。
 しかし、公園緑地課から示されたスケジュールでは、TENOHASIの炊き出しは9月12日が最後となってしまいます。時間がありません。緊急に、以下のことをお願い致します。

1,9月14日以降も、池袋駅周辺の公園または学校跡地など適切な場所で炊き出しが
  継続できるよう取りはからってください。
2,地元住民の苦情・反対があれば、私たちに伝え、必要に応じて話し合いの場を
  設けてください。
 
 上記2点について、ぜひとも区長のご英断をお願いします。

 お忙しい中誠に申し訳ありませんが、申し入れ2週間後の8月12日までに、ご返答いただくようお願い申し上げます。

 また別紙にて、炊き出しの重要性と支援活動の内容を具体的にご説明します。お読みいただければ幸いです。

 特定非営利活動法人TENOHASI
  代表理事       森川すいめい
                久里浜アルコール症センター(精神科)医師
                自治医科大学公衆衛生学部門(研究生)
副代表理事・事務局長 清野賢司
                東京都杉並区立済美養護学校教諭
   理事         坂内孝雄
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by tenohasi | 2009-07-31 14:24

炊き出しがピンチです!

みなさま

 私たちは、7月28日に炊き出しについて豊島区長宛の申し入れ書を提出しました。次のページに掲載しますのでぜひご覧ください。

 いつも炊き出しをしている南池袋公園が、変電所工事のために9月14日から5年間閉鎖されることになりました。6月17日、公園閉鎖後の炊き出しの場所について豊島区公園緑地課に話しに行きましたが、公園緑地課は「昨年秋から工事の説明のために地元を回ったところ、苦情が噴出した。今後は他の公園でも炊き出しのための公園使用は認めない」と通告してきました。
 このままでは9月12日の炊き出しを最後に、10年以上続けてきたTENOHASIの炊き出しが終わってしまいます。

 苦情があることは事実でしょう。しかし、「だから炊き出しをやめさせる」というのは全く短絡的です。両立させる道を探るべきです。

 苦情の内容の詳細はまだ受け取っていませんが、口頭できいた限りでは、毎週金曜日のマザーテレサの会の炊き出しと毎月第2/第4土曜日のTENOHASIの炊き出しが同じ公園で行われていて最近どんどん人数が増えていることへの反発やおそれ、路上生活者が公園とその周辺にたむろすることに対する心配やゴミをちらかすなどの問題、さらにホームレス支援団体はヤクザや貧困ビジネスの手先なんだろう(!)という偏見など、様々な要素が絡み合っているようです。

 迷惑をかけていれば謝ってできる限り改めますし、金曜と土曜は場所を変えることも考えられますし、偏見には直接会って話し合うことで解消することもできるでしょう。

 しかし、この間、公園緑地課からは、苦情があることは一言も言われていません。炊き出しの度に使用許可をもらいに行っているにもかかわらず、です。そして、そして、公園閉鎖まで3ヶ月を切ったこの時期に、いきなり「炊き出し禁止」を言い渡されたことに大変驚いています。 

 TENOHASIの炊き出しが、単なる食糧支援にとどまらず、健康相談・生活相談や鍼灸指圧マッサージ・お茶会など、路上に暮らす方々への総合支援の場になっていることは、このブログの読者の方ならよくご存じだと思います。今まで多くの方が、炊き出しでの出会いから、路上から脱したり、生きる力を取り戻したりする姿を見てきました。
 しかし、これをやめろと言われています。自殺者が過去最悪の年に迫る勢いで増えている今、豊島区は、池袋の路上生活者やネットカフェ難民などの生活困窮者に「食糧も健康も生活も支援してきた民間団体の炊き出しをやめさせるから、後は自己責任でどうにかしなさい」というメッセージを出すのでしょうか。

 しかし、区長からの返答が建設的なものになるかどうかは予断を許しません。

 私たちの思いに賛同してくださる方は、ぜひ豊島区長宛にエールを! メールやファックスで送ってください。
メールは、豊島区ホームページのフォームで。

https://www.city.toshima.lg.jp/cgi-bin/contact.cgi?mail=voice

FAXは豊島区役所広報課 03-3981-1375 へ。

だれがメールやファックスを送ってくれたか把握しておきたいので、
メールやファックスを送ってくれた方は、できるだけ下記にもお送りください。
メール tenohasi@yahoo.co.jp
FAX  03-5934-1146(事務局)

自分が入っているメーリスに投稿したりするのも大歓迎です。

炊き出し継続のために、1人でも多くの方が路上から脱したり生きる力を取り戻せるように、がんばりましょう。

TENOHASI事務局
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by tenohasi | 2009-07-31 14:21

添付資料1 TENOHASIの活動と、炊き出しの必要性について

炊き出し存続のための豊島区長宛申し入れ書に添付した説明資料です。
なぜ炊き出しが必要なのかを縷々述べています。長文ですが、ぜひお読みください。

TENOHASI事務局 
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資料1 TENOHASIの活動と、炊き出しの必要性について

1,NPO法人TENOHASIについて

 私たちは、誰もが安心して生活できる社会の実現に寄与することを目的として、豊島区におけるホームレス状態の方を含む生活困窮者への支援活動および調査広報活動を行っている法人です。結成は2003年で、それまで池袋で炊き出しや医療相談を行ってきた団体が団結して任意団体として発足し、2008年に法人格を取得しました。メンバーは、ホームレス問題に関心を持ち、少しでもこの状況を変えたいと願って集まった人々で、全員が無給のボランティアです。中心なスタッフは約30名で、医師・看護師・教員・鍼灸指圧マッサージ師・臨床心理士などの専門職、会社員・学生・主婦(夫)・さらに現役または元路上生活者が対等な立場で運営しています。毎回の炊き出しは、30~50名のボランティアで行っており、メーリングリスト登録者は約250名です。特定の宗教的・政治的団体等との関係はありません。
 TENOHASIの財政規模は年間約120万円で、すべてが個人からの寄付でまかなっています。物品の寄付の寄付にも頼るところが大です。


2,なぜ池袋で炊き出しが必要か

 池袋駅は新宿・渋谷に並ぶ日本有数のターミナル駅で、そこに人・モノ・仕事が集って副都心と呼ばれる大都会を形成しています。職も住まいも失った人が、大都会に行けば何か仕事が見つかるのではないか・そうすれば生活できるのではないかと思って大都会に集まるのは自然なことです。副都心を抱える豊島区は、ドヤ街・山谷を抱える台東区・河川敷に集住地帯がある墨田区・同じく副都心である新宿区と渋谷区になどに次いで路上生活者の多い地域となってきました。これらの地域では、全国各地から次々と集まってくるホームレスの人たちをどうにか助けたい、路上から脱出させたいと思う人たちが、炊き出しを中心とする支援活動を行っています。池袋でも10年以上前に立教大学の教員と学生・池袋や新宿の路上生活当事者などが集まって南池袋公園での炊き出しが始まり、やがて炊き出しに集まった人たちを対象に医療相談や生活相談などが始まり、現在のNPO法人TENOHASIになりました。池袋で炊き出しを行っている団体は他にもありますが、路上から脱出するための総合的なサポートを行っているのは私たちだけです。その炊き出しがなくなるということは、豊島区に起居する路上生活者が、路上から脱出する施策にアクセスする機会を大幅に減らし、さらに多くの路上生活者が池袋に滞留し、さらに多くの方が池袋の路上で死を迎えることにつながるでしょう。
 炊き出しがあるから路上生活者が池袋に集まるのだという意見も聞きました。しかし、私たちの炊き出しは月に2回(他におにぎり配布が週1回)にすぎず、頼るにはにはあまりに少ない回数です。実際、初めて池袋に来た路上生活者に聞き取りしても、ほとんどの方は炊き出しがあることを知らず、仕事や寝る場所を求めて池袋に来たと語っています。

3,生活困窮者・路上生活者の増加

 炊き出しに並ぶ人が減少し、必要性がなくなったのであれば私たちは喜んで炊き出しを中止します。しかし事態は逆に進行しています。
 毎月第2/第4土曜日に行っているTENOHASIの炊き出しに並ばれた方の2005年から2009年の半期ごとの平均数(2009年は上四半期)を以下にお示しします。

2005年度 4月~9月平均 218人
  10月~3月平均 247人
2006年度 4月~9月平均 219人
  10月~3月平均 209人
2007年度 4月~9月平均 196人
  10月~3月平均 221人
2008年度 4月~9月平均 266人
 10月~3月平均 334人
2009年  4月~6月平均 362人

一見しておわかりの通り、2007年度までは200人前後で推移していました。しかし2008年度前半から増加し、とくに後半からは未曾有の増加ぶりを示しています。この増え方は、現在進行している雇用危機のために収入の道を閉ざされ、炊き出しに並ばざるを得なくなった方々が激増していることを示しています。炊き出しの現場では、従来ならばほとんど見ることができなかった20~40代の若い方が増え、聞き取りをしてみると「派遣切りにあって寮を出ざるを得なくなり、仕事を求めてやってきた」「建設・建築業で働いてきたが、仕事がほとんどなくなった」などおっしゃる方が多数いらっしゃいました。
東京都の路上生活者概数調査では、豊島区域の路上生活者は2008年1月の166人に対して2009年の1月には94人に減少しています。しかしこれは昼間の目視調査によるもので、昼間、テントや段ボールハウス等で生活していたり路上で寝ていたりして路上生活者と見られた人の数でしかありません。確かにテント等で生活している人は一昨年度豊島区でも実施された地域移行支援事業等でアパートに入居したり、首都高速5号線の高架下にあった集住地帯をフェンスで囲うなどしたために減少しました。しかしこれは路上生活者全体の減少を意味していません。今、路上生活者の多くは、昼は町中を歩き、夜だけ段ボール等を敷いて路上に寝るという生活をしています。これらの方は東京都の概数調査ではカウントされません。
 更に言えば、派遣切りなどで職を失った方は、ネットカフェやファストフード店など深夜営業の店で夜を過ごして、路上で寝ることがないという方が大部分です。炊き出しに並ぶ方の中で増加したのはこのようなタイプの方が大部分だと思われます。



4 医療相談と特別対策・路上死

 南池袋公園の炊き出しの際に行っている医療相談では、心身の不調を抱える方を対象に、ボランティアで参加している医師・看護師が無料で相談に応じています。相談に訪れる方は毎回20~50名で、血圧を計ったり、外傷や皮膚疾患などの方が応急処置を受けたり、風邪や胃炎などの方が市販薬をもらったり、通院・入院が必要な方には医師が紹介状を書くなどの活動を行っています。医師には精神科医・歯科医もいて、身体以外の疾患も含めた総合的なサポートを行っています。
 昨年度、TENOHASIの医療相談を訪れた方は延べ825名、そのうち紹介状を発行した方は17名で、その多くが医療につながって路上から脱しています。もしこの活動がなくこれらの方が放置されればどうなるでしょうか。今よりも多くの方が豊島区内で路上死を迎えるでしょう。また、劣悪な生活環境から結核やインフルエンザなど伝染性の病を発症する方が増え、路上生活者だけでなく多くの区民が感染のリスクにさらされることになるでしょう。
 豊島区でも、年2回「路上生活者特別対策」を行って、路上生活者の疾患、とりわけ結核の蔓延を防ぐ活動をされており、私たちも広報や実施の場面で協力しています。私たちの毎回の活動は、豊島区の事業を補完するものになっています。
 このように、行政と民間が協力して路上生活者の健康を守り、疾患の蔓延を防ぎ、豊島区の保健衛生の向上に一定の役割を果たしている状況をご理解いただき、ぜひとも炊き出しの継続を認めてくださいますようお願いいたします。


5.生活相談と福祉行動

 路上生活者が路上から脱するサポートとして最も重要な活動が生活相談と福祉行動です。TENOHASIの炊き出しでは、必ず医療相談とならんで生活相談のブースを設けており、両者は緊密に連携しながら、路上から脱するサポートをしています。この活動は、「ホームレスの自立支援方策について」(平成12年3月8日 厚生労働省ホームレスの自立支援方策に関する研究会)の「3 ホームレス自立支援事業の効果的な進め方」にうたわれている
「○ 民間支援団体等との連携・協力による福祉事務所等の窓口への誘導
 ○ 街頭相談における地域のNPOや民間支援団体等との連携・協力」
に沿ったものであると考えます。
 ホームレス状態から脱するために最も重要な施策である生活保護制度と路上生活者自立支援事業は、自ら利用を申し込んだ人が対象です。しかし、路上生活者の多くは、制度があることを知らなかったり、知っていても自分は利用できないとあきらめてしまったりという齟齬がしばしば生じています。私たちの生活相談では、その方の状況や希望をじっくり聞いて、どの施策をどのように利用すれば路上から脱して自立できるかを考え提案します。そして必要ならば、病院や役所に同行してサポートをし、その後も必要に応じて訪問したり相談に乗ったりする福祉行動を行っています。
 利用する施策のほとんどは前述の生活保護制度か路上生活者自立支援事業ですが、どちらも利用できればすぐ自立できるわけではありません。一般社会で生活が破綻して路上生活に陥った方の多くは、再び一般社会に復帰することに大きな不安を抱えており、その不安から再び生活を破綻させる方もいらっしゃいます。精神的・身体的な病や障害を抱える方の中には施設や病院を何度も飛び出してしまう方もいらっしゃいます。そのような方とも粘り強く関わって次第に信頼関係を築き、社会の中で安心して生活ができるようにすることが福祉行動の目的です。TENOHASIの福祉行動によって人間らしい生活を取り戻した実例は、池袋駅構内で2年近くにわたって立っていた統合失調症の女性や、軽度の知的障害のために暴力団が経営する土建会社で酷使虐待されてきた青年など、多数あげることができます。
 生活相談と福祉行動に関わるスタッフは、経験豊富なボランティアです。時には他区、他の都道府県まで同行してサポートすることもしばしばありますが、実費をTENOHASIが負担するだけで、スタッフは賃金を受け取っていません。サポートされる本人には、TENOHASIが食事・交通費などを負担することはあっても、本人から料金などをいただくことは一切ありません。
 たくさんの方のサポートができたのも、炊き出しの場にたくさんの方が集まり、そこで出会った人とゆっくり話ができるからです。炊き出しがなくなれば、そのような機会もなくなり、サポートを必要としている人が、そのまま路上に放置されることになるでしょう。路上生活者を減らし、貧困にあえぐ人を人間らしい生活に戻すためにも、炊き出しは必要です。

6.その他の活動

①鍼灸指圧マッサージ
 毎回の炊き出しの際に、希望者を対象に無料で鍼灸指圧マッサージを行っています。心と体の疲れをいやして元気を取り戻して欲しいという願いから、専門の鍼灸指圧マッサージ師がボランティアで行っているもので、毎回5~15名程度が利用されています。
②池袋ほっと友の会(お茶会)
毎月第四土曜日の炊き出しの際に行っています。孤独になりがちな路上生活者が、ボランティアスタッフとともにお茶を飲みながら語り合い、心をいやして元気を取り戻して欲しいという考えから、臨床心理士を中心として運営しています。毎回路上生活者が5~10名、ボランティアスタッフはほぼ同数参加しており、リピーターの中には「これがあるから、来月もまた酒を飲み過ぎずに健康でいようと思う」と語ってくださる方もいます。
③法律相談
 年4回、3の倍数月の第4土曜日に、無料で借金・賃金未払いなどの法律相談を行っています。スタッフは「ホームレス総合相談」の弁護士・司法書士などの法律家で、毎回10名程度が利用し、債務整理や賃金の請求等のサポートを受けています。
 
これらの活動も、炊き出しに集まったたくさんの方を対象にしてこそ有効に機能します。


7.体験学習としての炊き出し

 格差と貧困の問題がクローズアップされるにつれて、ホームレス問題を重要な社会問題として捉える方が増えてきました。TENOHASIでは、ホームレス問題の現場を体験したいという方を積極的に受け入れています。
 個人で参加された学生・社会人は昨年度下半期だけでも80名にのぼります。また学校の学習の一環として体験学習をされた方は、今年度になってからでも、大学2校(一橋大学大学院・東京女学館大学)・看護学校1校(板橋中央看護専門学校)の3校から延べ40人以上となっています。高校や中学校のボランティア体験を受け入れることもしばしばあります。体験に来た方は、ともに炊き出しを行い、スタッフや当事者とふれあうことで、社会のあり方を考え、今後の生き方を考える貴重な学習の場になっています。今後は、地元の方や区内の学校に呼びかけて、ボランティア体験学習をもっと受け入れたいと考えています。これも、豊島区に炊き出しの場があってこそです。

8.むすび
 私たちは、たかだか月10万円程度の経費で活動している弱小ボランティア団体です。年間数十億円の資金を集める大きなNPO法人や、ましてや行政機関とは比べものにならない規模です。しかし、豊島区に集まる路上生活者への継続的な支援活動としてはこの活動がほとんど唯一であり、「自立サポートセンターもやい」やこの年末年始に行われた「年越し派遣村」などと連携しあいながら、路上生活者の自立支援を続けてきました。そのもっとも中心となる活動が炊き出しです。
 未曾有の不景気によって多くの方が路上生活者・生活困窮者になっています。この状況で、行政がどのようにセーフティーネットを再構築し、誰もが安心して暮らせる社会を再建していけるか、住民は注目していると思います。今、豊島区が、「路上生活者の自立を支援する」のではなく「民間団体の支援活動をやめさせる」と言うメッセージを出すことは「品格と文化を誇れる価値あるまち」にふさわしいとはとうてい思えません。弱き者に優しい、弱者への偏見のない品格のあるまちをつくるために、炊き出しの継続を認めていただきますよう、切にお願いいたします。

文責

特定非営利活動法人TENOHASI 副代表理事・事務局長
東京都杉並区立済美養護学校教諭
清野賢司
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by tenohasi | 2009-07-31 14:19

添付資料2 炊き出しと医療支援について

豊島区長宛の申し入れ書に添付した説明資料の2つめです。代表理事の森川すいめい医師が、炊き出しの場での医療支援の必要性について述べました。ぜひご覧ください。

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資料2 炊き出しと医療支援について

当会が行ってきました医療支援についてご紹介申し上げます。
同時に、医療支援には炊き出しという場が重要かつ不可欠である理由についてご説明致します。
何卒、円滑な医療支援ができますよう、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。

以下4項目について、ご説明申し上げます。
1、 当会の医療支援活動が必要となった背景
2、 身体疾患について
3、 精神疾患について
4、 医療支援において炊き出しの場の意義について
5、 今後の活動予定



1、当会の医療支援活動が必要となった背景
昨今の不況下、豊島区の福祉職員の皆様も非常に熱心に業務を行っていることを常々敬服しております。そうした中でも生活困窮者の増加によって、どうしても支援が不足してしまう部分があると理解しております。しかしながら、不足する支援の中で医療については生命に関わる部分であり、不足があってはならないところであることは申し上げるまでもなく、職員の皆様も十分頑張っているところではあると存じます。ところが現状は、行政活動のみではカバーできないところが多くあると、当会では感じております。
2003年までは、当会は、炊き出しによる支援活動と、アウトリーチ活動のみを行っておりました。こうした活動の中で、身体疾患や精神的なつらさを抱えたまま路上生活から脱する方法を見つけられない方々と多く出会いました。多くの方が、「誰に相談していいのか分からない」と話され、その一方で、心身の不調により路上生活から脱して社会復帰をしていく気力も体力もなくなっていく姿をまのあたりにしておりました。こうした
方々の中には、福祉窓口へ相談に行くようにお伝えしても、福祉に相談に行く力さえも失っている方々も多くいらっしゃり、かなり重症になってから、救急車を呼んで病院に掛かって、その時点ではもはや回復不可能な状態であったといった方も多くいらしたことを経験しました。そこで、当会は、福祉行政を補完すべく、重病の方が医療にかかりやすく支援するのと同時に、重病になる前に医療に掛かり社会復帰しやすくなる支援を目標に、医療専門職有志が集まりまして医療班を立ち上げ、医療支援業務を開始致しました。
現在は、活動開始以来、医療が必要な方に医師による紹介状を書き、福祉窓口に同行しております。重症な方で、誰かの同行が必要なことも多くありますが、福祉職員の皆様が業務に追われておりますので、業務を補完すべく当会スタッフが同行することも多くあります。また、当初活動時は、重症の結核の方や、根治不能な心臓病や癌の方もありましたが、最近は、重症の方の割合が減っております。重病になるまえに医療にかかることで、その方が社会復帰しやすくなることは自明のことでありますので、当会の活動の成果があったと考えております。


2身体疾患について
野宿状態の方々は、平均年齢が50代を越えています。年齢的にも当然ながら多くの身体疾患を有しております。疾患は野宿に至るまでは病院で治療を受けていたが、失業等理由によって病院にかかることができなくなった方や、劣悪な野宿環境のために、新たに疾患を患った方も少なくありません。このうち、見た目で分かるような急性疾患である外傷、皮膚疾患等は、福祉窓口で相談すると医療にかかりやすいわけですが、見た目では分からないような、たとえば糖尿病や高血圧の悪化などは、福祉窓口に相談に行かれても、うまく伝えることができずに医療にかけてもらえなかったという声を頻回にお聞きします。一方で、こうした慢性疾患は、容易に悪化し、致死的になります。早い段階での治療が継続されれば、社会復帰をしやすいですが、放っておけば脳卒中、心臓病等で亡くなったり後遺症を残すものであります。治療を受けてさえいれば防ぎえた死や後遺症が多くあります。また、野宿に至った方の多くは、建築現場等で働いていた方が多いわけですが、現在は血圧が高いなどの症状がある場合は、仕事をもらえない現実があり、働く意欲があっても自力では社会復帰できなくなっているようです。さらには、血圧が高いくらいでは心配ないと思っている方も多く、疾患予防のためには健康教育も必要です。
当会医療相談では、急性の疾患はもちろんのこと、こうした慢性疾患についても取り組んでおります。相談会場では血圧計を置いたり、気軽に相談できるような工夫をしております。こうすることで、治療が必要な方を探し出し、治療を勧めることや重症になることを予防しております。医療にかかる必要がある場合は、医師が紹介状を書き、福祉窓口へスタッフが同行しているしだいです。最近では、軽いうちに医療にかかり、福祉を通じて社会復帰されたという報告を頻回に聞くようになりました。もちろん、重病な方についても、路上死してしまう前に医療におつなぎすることで、つらい症状が緩和されております。
炊き出しの場は、相談する場所が分からない、相談していいのか分からないといった情報不足や不安を軽減することができるという点で、疾患が致死的にならないための支援ができる場であります。また、医療専門職ではない福祉事務所の相談窓口の方がどのような医療支援につなげるべきか否かを判断するにあたって、医療職でない方による判断ミスが致死的な理由にならないよう、間違いなく適正な医療にかかることができる支援となっております。


3、精神疾患について
ホームレス状態に関する各国の文献を調べますと、ホームレス問題は精神疾患の問題であると読み取れます。欧米では、ホームレス状態の方のほとんどが精神疾患であります。日本は病院がたくさんあったために、欧米とは違い、家族支援などが期待できないようなホームレス化してしまいそうな方についても病院収容してきたという背景がこれまでありました。一方で、最近では、財源の問題も加味され病院収容はよくないという厚生
労働省方針を受けて、病床数の減少、入院の短期化が推進されていることはご存知のことと存じます。こうした中で、家族負担が増え、今後、精神疾患についてホームレス化していく方が増えていくのではないかと懸念されています。日本では、しかしながら精神疾患とホームレス問題について調べられたものはなく実態はわかっていません。そこで当会は、自治医科大学公衆衛生学部門と共同で、2008年度年末年始に、精神科医による診断をするという調査を行いました。結果は、添付致しました別紙資料をご参照ください(日本公衆衛生学会投稿予定です)。ここで分かりますことは、日本においても、精神疾患患者が
少なくはないということでありました。その多くは、失業が原因となってホームレス化してしまったことによるうつ病でしたが、それ以外にも、医療支援が必要なアルコール依存症の方や統合失調症の方が15%程度ずついらっしゃることが分かりました。今回は明らかになっておりませんが、発達障害、認知症といった知的障害の方も少なくはないようです。
当然のことながら、こうした精神疾患を有する方々は、自力で路上生活から脱することは困難です。福祉窓口に相談に行っても、自身の言いたいことを十分言うことができず、支援を受けることをあきらめてしまう方も多いようでした。
当会には、2名の精神科医1名の臨床心理士、5名の精神科看護師がおります。こうした者が、路上生活の状態で困っている方について相談を受け、疾患鑑別をし、適正な医療にかかることができるよう当会は支援をしております。また、本来は、障害が分かった時点で福祉にお願いして支援につないでいただくことになりますが、先にも書きましたとおり、福祉行政も多忙を極めているために個別のケアが十分にできないようであります。そこで、当会スタッフが、医療にかかったあとでも、適正な支援につながるまで補完的にケア支援をしております。
精神疾患を有する方というのは、自覚症状をうまく表現できず、どうしたいのかどうなったらいいのかの想像ができない状態である方も少なくありません。よって支援につながることは非常に困難なことです。そのうえ、精神疾患ゆえに、路上生活から自力で脱出することは困難です。それでも、炊き出しは、こうした方も訪れます。炊き出しという場で、気軽に相談できる場があるというのは、どうしたらいいのかわからなくなってしまっている方についても、支援ができるようになります。うつ病をはじめとした精神疾患が悪化すれば、社会復帰が困難になるばかりでなく、そのまま自殺をしてしまうと考えられます。
これらを防ぐ意味で、こうした支援は必要不可欠であります。


4、医療支援においての炊き出しの場の意義について
生活が困窮し、余儀なく路上生活となってしまった方の多くは、福祉行政というものを十分にご存じない方が多くあります。生活が困窮した自分たちに何をしてくれるのか、というのを知らずに相談に行ったことがないという方も少なくありません。
こうした中には、身体や精神疾患を有しており、治療が必要な状態であるにもかかわらず誰にも相談できないまま病気を悪化させている方があります。このような惨事を防ぐためには、専門的な知識を有したということが前提とはなりますが、知識を有した福祉行政職員による積極的なアウトリーチ活動がもっとも有効なことと考えられます。アウトリーチ活動も、たとえば統合失調症やアルコール依存症などの精神疾患がある場合は、1回だけ訪れるというのではなく、何度も何度も話を聞きに行って信頼関係を高めるといった活動も重用になってきます。広報、説明、信頼関係を得る、疾患を鑑別するという活動が必要になります。人数も時間も限られている中、できるだけ多くの困窮者に対し、効果的な医療支援を行うためには、炊き出しの場は最適であります。誰もが訪れ、そこに看板と机があって、気軽に相談できる雰囲気があるということは、当事者にとって、相手が誰であるかが分かるという点ですでに信頼関係を築くことができますし、相談していいのだとわかるようになることで、相談につながります。炊き出しの場は、こうした命をつなぐ医療支援を行う上で、非常に重要であります。


5、今後の医療活動予定
今後は、路上生活者の中で精神疾患を有する方が増えていくことは、医療財政の悪化、地域の脆弱化、他国先行事例から考えますと、避けがたいことと考えられます。現在のように、専門職のいない福祉行政相談窓口では、こうした方へのサポート活動は困難であると考えられます。これまで当会が行っておりましたことは、路上生活状態の方の中で精神疾患を有する方について、疾患鑑別をし、医師が紹介状を書き、当会スタッフが付き添い医療につながるという活動でした。本来福祉行政職員の方が同行すべき支援についても、人員不足を補うべく当会が無償でサポートしておりました。ところが、こうした活動の中で見えてきたことは、たしかに福祉につながることも困難ではありますが、つながったあとで医療につながり、さらには地域生活にたどりつき、さらに地域生活を維持することが困難であるという現状でした。そこで、当会は、他の団体とも協働して、一人の精神疾患を有する路上生活者が地域生活を維持していくところまでの支援をする計画を立て始めることとなりました。この活動は、こうした困っている方をサポートするためにはなくてはならないものですし、一方で現在の福祉行政の人員では不可能なことと考えられます。おそらくは、精神疾患を有する方が、窓口に一人で相談に行っても要領を得ずに支援できなか
ったり、そうかといって、当会が紹介状を書くのみの活動では、限界資源の中支援方法がみつからないために福祉行政職員はただ疲弊してしまうということが考えられます。当会の活動は、当事者ならびに豊島区の福祉行政にとっても必要不可欠の業務となると考えております。行政と民間団体がこうして協働で行っていくことで、はじめてなしえる支援と考えられます。今後の活動の入り口となる場所もまた、炊き出しという場です。適正な医療支援を行い、一人でも無駄に死んでしまうことを防ぐ場としての炊き出しの場の継続をご理解いただき、ご支援頂戴できればと存じます。


文責 
NPO法人 TENOHASI 代表理事
独立行政法人 国立病院機構 久里浜アルコール症センター 
精神科医
自治医科大学 公衆衛生学部門 研究生
森川すいめい
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by tenohasi | 2009-07-31 14:11

炊き出しボランティア日記Vol.8

7月25日(第四土曜日) 晴れ

暑さがハンパないです!アツイ!
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頂いたミートソース缶が大量にあったので、今日はそれで味付けした汁物を作りました。

定番はしょうゆ味か味噌味なのですが、缶入りのソースなどを頂くことも多いので、
そのときによって色々な味付けになります。

大量のサバ缶をつかった時のスープはとてもおいしかった記憶があります。
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今回の炊き出しのボランティア参加者は26名。
内、新しくきてくださった方は5名。
久々に団体さんがいなかったので、みなさん個人で参加された方のみでした。
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てのはし(TENOHASI)のボランティアは、

一回きりでもok
アポなしok
できる時間でok

です。

午前中だけとか、午後2時間だけとか、全然okです。

見学+α程度に軽くやりたい方は16時あたりからの配食作業などがお勧めです。
逆にがっちりみっちりやりたい方は午前中からがお勧めです。

炊き出しや夜回りの日程など基本的な情報は【tenohasiホームページ】をご覧ください。

ボランティア受付担当 シロクマ

過去のボランティア日記:
【2009/04/11 炊き出しボランティア日記Vol.1】
【2009/04/25 炊き出しボランティア日記Vol.2】
【2009/05/09 炊き出しボランティア日記Vol.3】
【2009/05/23 炊き出しボランティア日記Vol.4】
【2009/06/13 炊き出しボランティア日記Vol.5】
【2009/06/27 炊き出しボランティア日記Vol.6】
【2009/07/11 炊き出しボランティア日記Vol.7】
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by tenohasi | 2009-07-26 01:33 | 炊き出しボランティア

炊き出しボランティア日記Vol.7

7月11日(第二土曜日) 晴れ

いつもどおりの炊き出し日。
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なんか変わった花が咲いてるな、と、みていたら、「さるすべり」とのこと。
見た目は知ってても、花や木の名前って意外と知らなかったりしますよね。


新しくボランティアに来られる方は、ボランティア自体が初めての方が多いです。
たまに阪神淡路大震災や海外などでボランティアを経験された方もいますが、
年代を問わずほとんどは初めての方です。

なんとなくキッカケがつかめなかったり、行きたい!と思ったときは何かで忙しい
時期だったり、なかなか参加できない方も多いのだと思います。

この記事の最後にも書いてありますが、「てのはし」のボランティアはできる時間だけの
参加も大歓迎ですので、ボランティアを始めるひとつのキッカケにしていただければ
嬉しいです。
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さて、今回の炊き出しボランティアは24名。
団体さんが2つだったので、まだ多いほうです。

3週間連続でいらっしゃってた団体さん(大学2つ)は今回で終わりでしたので、
次回は通常通り20名ぐらいになるかも知れません。
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てのはし(TENOHASI)のボランティアは、

一回きりでもok
アポなしok
できる時間でok

です。

午前中だけとか、午後2時間だけとか、全然okです。

見学+α程度に軽くやりたい方は16時あたりからの配食作業などがお勧めです。
逆にがっちりみっちりやりたい方は午前中からがお勧めです。

炊き出しや夜回りの日程など基本的な情報は【tenohasiホームページ】をご覧ください。

ボランティア受付担当 シロクマ

過去のボランティア日記:
【2009/04/11 炊き出しボランティア日記Vol.1】
【2009/04/25 炊き出しボランティア日記Vol.2】
【2009/05/09 炊き出しボランティア日記Vol.3】
【2009/05/23 炊き出しボランティア日記Vol.4】
【2009/06/13 炊き出しボランティア日記Vol.5】
【2009/06/27 炊き出しボランティア日記Vol.6】
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by tenohasi | 2009-07-12 01:48 | 炊き出しボランティア

  福祉の窓 (障害者を持つ家族の苦悩)

今回の話は、大分前に遡りますが、「てのはし」の医療相談での出来事です。

Aさん(50代)男性が、助けを求めるように、相談会にいらっしゃいました。

Aさんは医療相談では最初、体のだるさ、疲れやすさ、咳、不眠などを訴えてきましたので、内臓などの疾患が疑われ、内科的な処方の紹介状がかかれました。

その後、私のほうの福祉にかかる相談に移りましたが、どうにも落ち着きのなさや、大声で一方的にしゃべり続ける様子に、精神疾患の疑いを感じました。

病歴を聞くと、21歳で精神病院に入院し、その後は、入退院を繰り替えしていたそうです。病識は全くないようですが、どうも統合失調症のようでした。
最近まで精神病院に通院をしていたようです。精神障害者の手帳もあるようです。

Aさんの説明によると、90歳近い母親と姉との3人暮らしとの事でした。ところが、1ケ月前ほどに、家族にいじめられて家を飛び出し、乞食(ご本人の表現)なってしまったそうです。

服薬は中断しているので、当然、体調は悪く、攻撃的な口調にもなり、言うことも脈絡がはっきりしなくて、しかも、歯がないので、言っていること自体、よく聞き取りが出来ず、話を聞いているだけでも、聞いている方がぐったりしてしまう状態でした。

言動を観察してみると、絶えず水を飲み続けており、30分で1リットルの割合です。
勿論、トイレも頻繁です。物の言い方も、誰に対しても、命令口調で、我侭の振る舞いそのもです。人との間合いと言うものが全く取れません。

彼の障害は幼少の頃からのようで、恐らく、彼の障害に対処するにあたり、家族は彼に対し、躾はおろか、我侭三昧に扱ってしまったようで、人は彼のいうことを何でも聞く、と思ってしまっているという感じです。

これって、すごく難しいテーマですね。障害のある人に厳しすぎても症状を悪化させるし、そうかといって、子供が可哀想だとか、或いは、どのように扱っていいか分からなくて「なんでもOK」的な育て方をすれば、社会性が身につかず、長じて大きなしっぺ返しが待っていることになります。

さて、このような難しい人では私には手が負えません。ちょうど、そばに居合わせた精神科医に診断をお願いしました。やはり、統合失調症とのことで、早く病院に行かせて、出来れば入院がいいとのことで、精神科向けの紹介状を書いてい頂きました。

私のような福祉の相談者としてまず頭に浮かぶことは、「保護されて、どこかで入院を受けてくれればいいが、もし、通院となればどこかの施設に入る必要があるが、この人を受け入れてくれる施設は全くないだろう。
 この人は集団生活もドヤのような個室も無理だ。結局は自分が抱え込むしかない」というような言い知れぬ恐怖感です。

長く福祉活動をしている間には、よくあることですが、福祉行政の限界に精通してくると、困窮者に遭遇した場合、行政の力を利用すれば何とかなるか、或いは、今の行政にはどうすることも出来ない、かがすぐに分かるようになります。

しかし、このケースは、それ以前の話として、彼が本当に保護の対象になるような境遇の人であるかが気になっていました。なぜかというと、彼の家はB区にあり、つい最近までそこで住んでいたということは、B区の住民ということになります。

B区の住民であれば、本来はB区の福祉事務所が管轄になります。しかし、家族から完全に追い出されてしまい、帰ることが出来ない状態であれば、現在地保護の原則から、こちらの区で保護をすることは可能です。

彼はそこで家族のいじめを受けて出されてしまったと言っていましたが、ご家族の人の話も聞かないと本当のことは分かりません。彼の話では、家は貧乏で電話がないとのことでした。

その日は土曜日でしたので、福祉へお連れするのは月曜日になりますが、彼に関する客観的な情報が余りに希薄すぎて、このまま、福祉事務所に行っても、福祉の職員も困ってしまします。

第一、曲がりなりにも私も支援者である以上、もう少し、彼の情報を集めて、しかる後に、福祉にお連れすべきと考えました。そうでないと、福祉との信頼関係も維持できません。

そこで、次の日曜日に彼の住所を手がかりに、ご家族を探しに行きました。私には彼の家は一軒家という思い込みがあり、3時間もかかりましたが、ついに分かりませんでした。

後から分かったことですが、住所は正しかったのですが、アパートだったため、私の調査は挫折したようでした。

仕方ないので、月曜日にぶっつけ本番で臨みました。勿論、それまでに聞き取った内容は情報提供書にまとめてありました。

福祉事務所も彼をみてちょっとびっくりしたようですが、私は医療班のボランティア医師の紹介状を見せながら保護までの経緯を説明しました。

福祉事務所も会話がうまく成り立たないAさんに対し、聞き取りが思うように出来ず苦慮していましたが、私が病院への付き添いなどのフォローをするとの前提で、すぐに保護を受理して、取り敢えず、処遇の検討に入りました。

まず、最初に、彼の所持していた精神病院の診察券をもとに、職員が電話をかけ、家族のことを聞きましたが、病院は守秘義務jがあり、答えられないとのことでした。

診察の予約は受けてくれましたが、彼の主治医の日がいいだろうとのことで、2日後になりました。

それまでの間、旅館代は福祉が払うが、旅館を探すのと彼の面倒をみるのは私の役目になりました。旅館を探すと言うことは、旅館で何かあればその責任は当然私が負うことになります

それだけに、私には大きな不安がありました。果たして旅館に2日間、一人でおとなしくしているかどうか見当もつきません。

ひょっとして、問題行動を起こして出されてしまうとか、或いは、旅館に何らかの損害を与えるようなことをして、私が弁償の責を負う事になるとかです。

実は私にはこの旅館とのお付き合いが長く、極端にいうと、どんな人でも泊めてくれました。しかし、直近で続けて2回ほど、かなりの迷惑を掛けてしまいました。

その一つは、認知障害のある女性が部屋のゴミ箱におしっこをしてしまいました。さすがに大騒ぎになり、今後のことを考えて、私がやむなく弁償を申し出ました。

しかし、旅館の女将がいい人で、「中村さんにはいつもお客さんを連れてきてもらっていますから」と言って勘弁してくれました。

しかし、その後は、さすがに、審査が厳しく、私としてもある程度間違いないと思える人しか連れて行けなくなりました。しかし、Aさんは明らかに間違いがある人でした。

Aさんは水を飲み続けるせいもありますが、すごい頻尿で、間に合わない時は道で立小便をします。それも、道路の真ん中でしょうとします。

ですから、私としては爆弾をかかえるようなものですが、まあ、しかし、私は、その時はその時だと腹を括って旅館に向っていました。

しかし、その途中で、、役所から電話があり、彼のお姉さんが役所に6時に彼を迎えにくることになったので、その時間に彼を連れてきて欲しいとのことでした。病院経由でお姉さんに連絡が行ったようです。

このことは、私は、半分期待していたことであり、半分は恐れていたことです。

期待していたことは、彼にはちゃんとした家族があり、今回はたまたま何かの行き違いで、彼が失踪しただけで、いつでも元の鞘に収まることが可能なケースです。

一方、恐れていたことは、彼のお姉さんが福祉に扶養義務云々などと言われ、嫌々ながら引き取りにきた場合です。このようなケースであれば、何の解決にもならず、同じことがまた起きるだけです。

さて、期待と恐怖の交錯する思いを胸に秘めながら、彼を連れて6時に役所に行きました。勿論、彼にはお姉さんのことは一切、言っていません。

役所に着くや、担当職員が私と彼を相談室に案内しました。その後、すぐにお姉さんが来たようで、私だけが呼ばれて別の場所でお姉さんにお目にかかりました。

お姉さんはとても感じのいい方で、優しそうでした。一通り今までの経緯を説明しながら私が感じたことは、高齢のお母さんと障害のある弟を支える為に必死に働いており、福祉の制度や行政の支援などには全く疎い人のように思えました。

というか、働くこと意外に頭が働かないように見えました。というより、働く以外に時間の余裕がまったくないようでした。

お姉さんは大企業にお勤めのようで、家族の生活を支えるための収入はそこそこあるようで、その分、弟を障害者福祉の制度に乗せるような発想が起きなくて、全部、一人で抱えている人のようでした。

それでも、ニコニコしながら「ご迷惑をおかけしました」と方々へ頭を下げているお姉さんの姿をみていると、私としては「この方は何と重い荷物を背負っている人だろう。」とひたすら同情心が湧いてきました。

さて、いよいよお二人の面会になるのですが、私の関心は、迎えに来たお姉さんに会ったときの彼の反応がどのようなものかということでした。

ひょっとしたら、修羅場になるのかもしれませんし、少なくとも、いじめや虐待でも受けていれば、反射的に逃げ出すか、憎悪の言葉が行き交うかもしれません。

職員がお姉さんを彼の居る相談室に案内して行きました。私もすぐ後について行きました。

職員が部屋のドアを開けて、お姉さんに入るように促しました。その瞬間、お姉さんと彼との視線が合いました。その視線は冷たい火花でなく、春のような暖かいものでした。

驚いたことに、本当に驚いたことに、何も言葉を交わすことなく、ただ、お姉さんが「帰ろう」と声を掛けると、彼はすっと立ち上がって、当たり前のようにお姉さんについて歩き出しました。

彼の歩き振りはどこか軽やかで浮き浮きした感じでした。
私もお二人と一緒に役所から出て、外でしばらく立ち話をしていました

どうやらいじめとか家を出されたというのは嘘のようでした。
コーヒーにお砂糖をたくさんいれると体によくないとのお姉さんの心配でお砂糖をダメと言ったこと。
また、彼は一日タバコを40本吸っていますが、タバコの本数を抑えるためにお金を渡さなかったことなどがあったようです。
このようなお姉さんの思いやりが、障害のある彼にはいじめに思えたようです。

アパートは昼間は鍵を掛けていなくて、彼が自由に出入りできるようにして、お金も持って行けるようになっていたそうです。

私はお姉さんにB区の保健所に行き、自分の家の実情をよく説明して、何らかの支援をお願いするように言いました。

そして、デイケア、グループホーム、保健師さんの支援、ヘルパー、作業所への通所など、具体的な相談をお勧めしました。

病院も今度だけでも付き添って、先生に症状をお姉さんから説明し、出来れば入院させてもらい、その間に、彼の今後の生活設計をじっくり考えたらどうでしょうかと言いました。

お姉さんは私の話をよく聞いて下さって、「今まではそのようなことを考えたことがありませんでした。会社の休暇日数もありますので、いろいろ研究してみます」と言いました。

私は、お姉さんへ私の電話番号を教えていつでも相談して下さいといって、別れました。

日本の福祉の制度は必ずしも、完成度の高いものではないと思いますが、それでも、その制度をよく知って、利用していればまだしも何とかなると思います。

しかし、このAさんのお姉さんのケースのように、制度すら知らず、全部自分で背負い込んでいる家族もまだまだ随分いるのかもしれません。

それにしても、今、思い出すと、Aさんはどこか憎めない人で、とても甘え上手でした。きっと、あのお姉さんの愛情をたっぷりもらっていたせいだと思います。

しかし、悲しいかな、家族を支えるために、必死に働かなくてはならなかったお姉さんには、障害のある弟を手厚くフォローするための時間も心の余裕もなかったのに違いありません。誰がこのお姉さんを責めることが出来るでしょうか。

願わくば、今回の事件を契機に、福祉の制度を上手に利用出来るようになって、お姉さんの重荷が少しでも軽くなるのを祈る気持ちです。

少し、経ってから、Aさんの家に行ってみようと思います。お二人の間のあの暖かい絆が私の心に焼きついてはなれません。

以上です。

その後の状況ですが、Aさんは病院に行く日の前に、また、失踪したそうです。かなりの額のお金を持って出たようでお金を使い切ったら帰って来るように思うとお姉さんは仰っていました。

私はその話を聞いて、お姉さんのお宅に伺いました。少しでもアドバイスが出来ればと思いました。

お姉さんは結構細かくご家庭の事情などを話して下さいましたが、余りに複雑な要素が絡み合っているようで
私のような他人がこれ以上、介入しても何の力にもなれないことを思い知らされました。

私は、「何かあればいつでもご連絡ください」と言い残して、お姉さんのお宅を後にしましたが、内心、「もはや、これまで」という気持ちに押しつぶされそうでした。

幸せな家庭が不幸になるということはよくあるかと思います。しかし、ドン底に落ちきったような家庭が再び、幸せになることはほとんど不可能だろうという現実の前に気持ちが滅入るばかりでした。

人間は一つや二つの不幸では、ドン底まではなかなか落ちないでしょうが、その不幸の要素がいくつにも重なり、絡み合うと、もうどうにもなりません。

お姉さんから聞いた話の詳細は言えませんが、そんな感じということで、後味の悪いままに、「福祉の窓」を閉めたいと思います。

                                       福祉班 N
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by tenohasi | 2009-07-03 12:53 | 福祉の窓