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豊島区長宛の申し入れ書に添付した説明資料の2つめです。代表理事の森川すいめい医師が、炊き出しの場での医療支援の必要性について述べました。ぜひご覧ください。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 資料2 炊き出しと医療支援について 当会が行ってきました医療支援についてご紹介申し上げます。 同時に、医療支援には炊き出しという場が重要かつ不可欠である理由についてご説明致します。 何卒、円滑な医療支援ができますよう、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。 以下4項目について、ご説明申し上げます。 1、 当会の医療支援活動が必要となった背景 2、 身体疾患について 3、 精神疾患について 4、 医療支援において炊き出しの場の意義について 5、 今後の活動予定 1、当会の医療支援活動が必要となった背景 昨今の不況下、豊島区の福祉職員の皆様も非常に熱心に業務を行っていることを常々敬服しております。そうした中でも生活困窮者の増加によって、どうしても支援が不足してしまう部分があると理解しております。しかしながら、不足する支援の中で医療については生命に関わる部分であり、不足があってはならないところであることは申し上げるまでもなく、職員の皆様も十分頑張っているところではあると存じます。ところが現状は、行政活動のみではカバーできないところが多くあると、当会では感じております。 2003年までは、当会は、炊き出しによる支援活動と、アウトリーチ活動のみを行っておりました。こうした活動の中で、身体疾患や精神的なつらさを抱えたまま路上生活から脱する方法を見つけられない方々と多く出会いました。多くの方が、「誰に相談していいのか分からない」と話され、その一方で、心身の不調により路上生活から脱して社会復帰をしていく気力も体力もなくなっていく姿をまのあたりにしておりました。こうした 方々の中には、福祉窓口へ相談に行くようにお伝えしても、福祉に相談に行く力さえも失っている方々も多くいらっしゃり、かなり重症になってから、救急車を呼んで病院に掛かって、その時点ではもはや回復不可能な状態であったといった方も多くいらしたことを経験しました。そこで、当会は、福祉行政を補完すべく、重病の方が医療にかかりやすく支援するのと同時に、重病になる前に医療に掛かり社会復帰しやすくなる支援を目標に、医療専門職有志が集まりまして医療班を立ち上げ、医療支援業務を開始致しました。 現在は、活動開始以来、医療が必要な方に医師による紹介状を書き、福祉窓口に同行しております。重症な方で、誰かの同行が必要なことも多くありますが、福祉職員の皆様が業務に追われておりますので、業務を補完すべく当会スタッフが同行することも多くあります。また、当初活動時は、重症の結核の方や、根治不能な心臓病や癌の方もありましたが、最近は、重症の方の割合が減っております。重病になるまえに医療にかかることで、その方が社会復帰しやすくなることは自明のことでありますので、当会の活動の成果があったと考えております。 2身体疾患について 野宿状態の方々は、平均年齢が50代を越えています。年齢的にも当然ながら多くの身体疾患を有しております。疾患は野宿に至るまでは病院で治療を受けていたが、失業等理由によって病院にかかることができなくなった方や、劣悪な野宿環境のために、新たに疾患を患った方も少なくありません。このうち、見た目で分かるような急性疾患である外傷、皮膚疾患等は、福祉窓口で相談すると医療にかかりやすいわけですが、見た目では分からないような、たとえば糖尿病や高血圧の悪化などは、福祉窓口に相談に行かれても、うまく伝えることができずに医療にかけてもらえなかったという声を頻回にお聞きします。一方で、こうした慢性疾患は、容易に悪化し、致死的になります。早い段階での治療が継続されれば、社会復帰をしやすいですが、放っておけば脳卒中、心臓病等で亡くなったり後遺症を残すものであります。治療を受けてさえいれば防ぎえた死や後遺症が多くあります。また、野宿に至った方の多くは、建築現場等で働いていた方が多いわけですが、現在は血圧が高いなどの症状がある場合は、仕事をもらえない現実があり、働く意欲があっても自力では社会復帰できなくなっているようです。さらには、血圧が高いくらいでは心配ないと思っている方も多く、疾患予防のためには健康教育も必要です。 当会医療相談では、急性の疾患はもちろんのこと、こうした慢性疾患についても取り組んでおります。相談会場では血圧計を置いたり、気軽に相談できるような工夫をしております。こうすることで、治療が必要な方を探し出し、治療を勧めることや重症になることを予防しております。医療にかかる必要がある場合は、医師が紹介状を書き、福祉窓口へスタッフが同行しているしだいです。最近では、軽いうちに医療にかかり、福祉を通じて社会復帰されたという報告を頻回に聞くようになりました。もちろん、重病な方についても、路上死してしまう前に医療におつなぎすることで、つらい症状が緩和されております。 炊き出しの場は、相談する場所が分からない、相談していいのか分からないといった情報不足や不安を軽減することができるという点で、疾患が致死的にならないための支援ができる場であります。また、医療専門職ではない福祉事務所の相談窓口の方がどのような医療支援につなげるべきか否かを判断するにあたって、医療職でない方による判断ミスが致死的な理由にならないよう、間違いなく適正な医療にかかることができる支援となっております。 3、精神疾患について ホームレス状態に関する各国の文献を調べますと、ホームレス問題は精神疾患の問題であると読み取れます。欧米では、ホームレス状態の方のほとんどが精神疾患であります。日本は病院がたくさんあったために、欧米とは違い、家族支援などが期待できないようなホームレス化してしまいそうな方についても病院収容してきたという背景がこれまでありました。一方で、最近では、財源の問題も加味され病院収容はよくないという厚生 労働省方針を受けて、病床数の減少、入院の短期化が推進されていることはご存知のことと存じます。こうした中で、家族負担が増え、今後、精神疾患についてホームレス化していく方が増えていくのではないかと懸念されています。日本では、しかしながら精神疾患とホームレス問題について調べられたものはなく実態はわかっていません。そこで当会は、自治医科大学公衆衛生学部門と共同で、2008年度年末年始に、精神科医による診断をするという調査を行いました。結果は、添付致しました別紙資料をご参照ください(日本公衆衛生学会投稿予定です)。ここで分かりますことは、日本においても、精神疾患患者が 少なくはないということでありました。その多くは、失業が原因となってホームレス化してしまったことによるうつ病でしたが、それ以外にも、医療支援が必要なアルコール依存症の方や統合失調症の方が15%程度ずついらっしゃることが分かりました。今回は明らかになっておりませんが、発達障害、認知症といった知的障害の方も少なくはないようです。 当然のことながら、こうした精神疾患を有する方々は、自力で路上生活から脱することは困難です。福祉窓口に相談に行っても、自身の言いたいことを十分言うことができず、支援を受けることをあきらめてしまう方も多いようでした。 当会には、2名の精神科医1名の臨床心理士、5名の精神科看護師がおります。こうした者が、路上生活の状態で困っている方について相談を受け、疾患鑑別をし、適正な医療にかかることができるよう当会は支援をしております。また、本来は、障害が分かった時点で福祉にお願いして支援につないでいただくことになりますが、先にも書きましたとおり、福祉行政も多忙を極めているために個別のケアが十分にできないようであります。そこで、当会スタッフが、医療にかかったあとでも、適正な支援につながるまで補完的にケア支援をしております。 精神疾患を有する方というのは、自覚症状をうまく表現できず、どうしたいのかどうなったらいいのかの想像ができない状態である方も少なくありません。よって支援につながることは非常に困難なことです。そのうえ、精神疾患ゆえに、路上生活から自力で脱出することは困難です。それでも、炊き出しは、こうした方も訪れます。炊き出しという場で、気軽に相談できる場があるというのは、どうしたらいいのかわからなくなってしまっている方についても、支援ができるようになります。うつ病をはじめとした精神疾患が悪化すれば、社会復帰が困難になるばかりでなく、そのまま自殺をしてしまうと考えられます。 これらを防ぐ意味で、こうした支援は必要不可欠であります。 4、医療支援においての炊き出しの場の意義について 生活が困窮し、余儀なく路上生活となってしまった方の多くは、福祉行政というものを十分にご存じない方が多くあります。生活が困窮した自分たちに何をしてくれるのか、というのを知らずに相談に行ったことがないという方も少なくありません。 こうした中には、身体や精神疾患を有しており、治療が必要な状態であるにもかかわらず誰にも相談できないまま病気を悪化させている方があります。このような惨事を防ぐためには、専門的な知識を有したということが前提とはなりますが、知識を有した福祉行政職員による積極的なアウトリーチ活動がもっとも有効なことと考えられます。アウトリーチ活動も、たとえば統合失調症やアルコール依存症などの精神疾患がある場合は、1回だけ訪れるというのではなく、何度も何度も話を聞きに行って信頼関係を高めるといった活動も重用になってきます。広報、説明、信頼関係を得る、疾患を鑑別するという活動が必要になります。人数も時間も限られている中、できるだけ多くの困窮者に対し、効果的な医療支援を行うためには、炊き出しの場は最適であります。誰もが訪れ、そこに看板と机があって、気軽に相談できる雰囲気があるということは、当事者にとって、相手が誰であるかが分かるという点ですでに信頼関係を築くことができますし、相談していいのだとわかるようになることで、相談につながります。炊き出しの場は、こうした命をつなぐ医療支援を行う上で、非常に重要であります。 5、今後の医療活動予定 今後は、路上生活者の中で精神疾患を有する方が増えていくことは、医療財政の悪化、地域の脆弱化、他国先行事例から考えますと、避けがたいことと考えられます。現在のように、専門職のいない福祉行政相談窓口では、こうした方へのサポート活動は困難であると考えられます。これまで当会が行っておりましたことは、路上生活状態の方の中で精神疾患を有する方について、疾患鑑別をし、医師が紹介状を書き、当会スタッフが付き添い医療につながるという活動でした。本来福祉行政職員の方が同行すべき支援についても、人員不足を補うべく当会が無償でサポートしておりました。ところが、こうした活動の中で見えてきたことは、たしかに福祉につながることも困難ではありますが、つながったあとで医療につながり、さらには地域生活にたどりつき、さらに地域生活を維持することが困難であるという現状でした。そこで、当会は、他の団体とも協働して、一人の精神疾患を有する路上生活者が地域生活を維持していくところまでの支援をする計画を立て始めることとなりました。この活動は、こうした困っている方をサポートするためにはなくてはならないものですし、一方で現在の福祉行政の人員では不可能なことと考えられます。おそらくは、精神疾患を有する方が、窓口に一人で相談に行っても要領を得ずに支援できなか ったり、そうかといって、当会が紹介状を書くのみの活動では、限界資源の中支援方法がみつからないために福祉行政職員はただ疲弊してしまうということが考えられます。当会の活動は、当事者ならびに豊島区の福祉行政にとっても必要不可欠の業務となると考えております。行政と民間団体がこうして協働で行っていくことで、はじめてなしえる支援と考えられます。今後の活動の入り口となる場所もまた、炊き出しという場です。適正な医療支援を行い、一人でも無駄に死んでしまうことを防ぐ場としての炊き出しの場の継続をご理解いただき、ご支援頂戴できればと存じます。 文責 NPO法人 TENOHASI 代表理事 独立行政法人 国立病院機構 久里浜アルコール症センター 精神科医 自治医科大学 公衆衛生学部門 研究生 森川すいめい
by tenohasi
| 2009-07-31 14:11
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