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江戸川寮冬期宿泊レポート(平成19年2月9日〜2月22日)

 今回、手の橋の凸凹ボランティアコンビ「博と広」が、冬期特別対応で緊急一時保護センター江戸川寮に2週間入ってきた。T氏(博さん)とシェルターに入るのは今回で3回目。二人は名前も「ひろし」だが、生まれ年も同じ昭和24年(西暦1949年)。昭和24年というと、今の中国が建国された年であり、日本では確か湯川秀樹博士が「中間子理論」でノーベル賞をもらった年でもある。         
 また最近の話題としては、団塊の世代が大量退職した後の経済効果や、彼らがいなくなった職場の技術面での穴をどう埋めていくのか、あるいは引退後の第二の人生といった議論が社会では交わされ注目されている年代。
 団塊の世代では後期にあたるのだが、社会で話題の対象となっているのは、無事に会社を定年まで勤めあげる事ができた人達であり、いわば広い意味において勝ち組の中に残れた人達なのではないだろうか。しかし人生の後半において負け組になってしまった人達も今の日本を作り出し、高度経済成長を支えてきた事だけは間違いない。団塊の世代に対する評価は色々あるとは思うが。

 2月9日(金)豊島区にて入寮申し込み、当日の朝までは板橋寮に入る予定であった。午前8時30分に福祉課窓口に行ったところ、板橋寮にて何か問題が発生したようで、当分の間入寮受付は見合わせるとのことであった。しかたなく今回はダメと判断し、手の橋村(手の橋の当事者メンバー居住地区)に帰り着く寸前に、O氏(クマさん)から他寮に振替すると知らされ、再び区役所に引き返した。
 入寮希望者は当初5〜6人あったものとみられるが、最終的に残ったのは私とT氏、それに35歳前後と思われる若い人の計3人。その後入寮先は江戸川寮に決定した。後は個々の担当ケースワーカーと事務的な入寮の為の面接をし、福祉課職員と4人で江戸川寮へ向かった。

 江戸川寮はJR葛西臨海公園駅より、徒歩15分位の所。周辺環境は駐車場地帯で、まわりに一般住宅はない。隣接して下水道局処理場がある。窓からは都立葛西臨海公園の大観覧車が見える。夜になると骨組みにLEDライトが点き、色を複雑に変化させ、ゆっくりと点滅しながら回転している。花火の様でとても綺麗!その横で閉園時間近くに5分ほど本物の冬の花火!臨海公園まで行けば景色は良く、人口なぎさ、水族園、鳥類園がある。鳥類園は27万平米と広く、バードウオッチングを無料で楽しむ事が出来る。自然や鳥が好きな人にはとても良い所。私はもちろん気に入っている。
 しかし視点を自分が入所している場所に移し、江戸川寮と下水処理場を言い換えてみると「路上生活者再生センターと葛西水再生センター」であり、その両施設が並んでいる。偶然であろうか?意図的である可能性も考えられる。こういう所でしか路上生活者関連施設は、建てられない現実があるという事なのであろうか?

 寮内の様子は作り、間取り共に板橋寮とほぼ同じ(設備等も)。部屋は一部屋多く、10人部屋(2段ベッドが5つ)が11室(板橋寮は10室)。寮内規則、日課、支給品等も若干の違いはあるが板橋寮と同じである。寮内行事については大きく違う(後述)。ここにいると、板橋寮の中にいるような気分になる。たぶん寮内の写真を撮って見比べてみても、区別がつかないくらい同じ。
 食事は毎回弁当で、味はまあまあといったところ。一日の摂取カロリーは1800キロカロリーと低く、ご飯のおかわりはない。因に板橋寮は2400キロカロリーで、ご飯のおかわりがある。大食漢のT氏や、若い働き盛りの人達には物足りない量と思える。それにタバコか飲み物(3本)がつく。これは毎日自由に好きな物を選択出来る。

 江戸川寮は板橋寮と比較して、入所者と職員との接点が薄いように感じた。職員の数も少ないように感じる。その為かどうか断言は出来ないが寮内行事は少なく、その分だけ入所者は全体的にのんびりと生活をしている。暇を持て余している人もだいぶいる様に見えた。暇を持て余し過ぎて、疲れている人もかなりいるのではないだろうか?この生活が一ヶ月も続くのである!寝て食べて、風呂に入って、後はテレビを見るだけの生活で、時間を有効に使えない人達は飽きるのではと思う。T氏は一週間も経たないうちに「早く池袋に帰りたい」と言っていた。
 そういう生活が、入所者にとって良い事なのかどうか一概には言えないが、自立センターの前段階施設としてはゆるみ過ぎであろう。技能講習に通い、前向きに自立を目指している人は、有効に時間を使っているようだ。個々の意識の持ち方によって大きく差が出てくるものと思うが、一度落としたペースをまた上げていくのは大変なのではないかと思った。

 江戸川寮だけではないと思うのだが、シェルター入所者の若年化が5〜6年前と比べて進んでいるように感じる。私の部屋に入っている7人の内、50歳以上と思われるのは3人だけ。あとは20〜30代の人。私のいた部屋は偶然にそういう組み合わせになったものと思うのだが、全体でも10数人はいる。江戸川寮の入所者総数は70人位である。
 以前に特人厚(特別区人事厚生組合)がまとめた緊急一時保護センターの入所者データを見た事がある。そのデータでは、路上を経験していない若い入所者が10数パーセントいたと記憶している。私自身のシェルター入所経験からも納得出来る数字であり、その傾向は進んでいるものと思われる。これは私の印象でしかないが、シェルター入所者の平均年齢は、路上生活者の平均より若いと思う。この傾向に対する見方は色々あると思えるが、いずれにしても良い事ではない。

 シェルターに入ると普通の生活がいかに恵まれ、有り難いものかが分かる。部屋の中で布団で寝れる/三食とも定時に食べられる/風呂やシャワーが使える/洗濯が出来る/温水で顔が洗える/テレビが見られる/体調が悪ければ寝ていられる。さらに医師に相談し、治療が受けられる。治療は滝野川病院。これらの事は、普通の生活をしている時は当たり前の事ではあるが、路上で生活をしている人達にとっては、どれ一つとっても満足に出来ない事ばかりである。
 それとは対照的に、普通に生活が出来ている事の感謝の気持ちを忘れ、飽食の果てに肥満し、金と時間をさらに注ぎ込んでダイエットをしている、現代日本人の生活とは一体何なのか?最近の納豆ダイエットデータ捏造事件などは、番組を信じきって納豆を買いに走った者も含めて、愚かさの極みと言える。しかし私自身も過去の飽食生活を振り返り、反省をする日々でもあるのだが。

 健康管理の体制は板橋寮と基本的に同じ、しかし健康管理に関する講習会は全くなかった。板橋寮では看護士の健康講座、保健所職員の結核講演会、救世軍自省館の臨床心理士によるアルコール講演会などがあった。こういう部分においては板橋寮の方が評価は高い。

 総合的な評価としては、やはり板橋寮の方が活気があり、全体的に充実していると私は思った。T氏も同じ感じ方をしている様である。彼は「板橋寮の方がいいな!」を繰り返していた。二人とも板橋寮のやり方に慣れていて、生活上の戸惑いが随所にあったが、それを考慮しても板橋寮の方に軍配が上がる。
ほかに個人的な理由でマイナス点を付け加えるとすれば、江戸川寮の近くには図書館もパソコンが使える場所もない為に、一般社会から隔離されているような気分になることである。もちろん自由に外出は出来るのだが。
 実はこのブログも江戸川寮の昼食を欠食にして、銀座で書いている。その為に昼飯抜きの上に、交通費が480円もかかってしまった。

(路上のコラムニストX)
by tenohasi | 2007-02-19 12:35
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